たて糸 よこ糸

 
私の母は洋裁が大好きで
小さい頃に着ていた服は
ほとんどが母の手づくりでした。
 
母と買い物に出かけると
必ず立ち寄るのが生地屋さん。
母が生地を選ぶのを待つ間
くるくると大きく巻かれた
色とりどりの布地を眺め
色彩の鮮やかさを
楽しんでいたことを思い出します。
 
私が選ぶ布は大抵カラフルな絵柄。
ところが母は丹念に布を触り
織りを見て
これは肌触りがいいとか
丈夫だとか
実際に洋服になった時のことを考え
着心地のよさまで考えるのです。
子ども心に「そんなことはどうでもいいのに」
と思っていたものでした。
 
最近読んだ教育に関する研究論文の中で
教師の学級運営を“布”に例えた一説がありました。
 
布は一般的にたて糸とよこ糸を直角に交差させ
面をつくるように織られていきます。
まず、たて糸を張り
次いで、よこ糸を直角に織り込みます。
 
論文の中では、生徒と教師の上下関係をたて糸にたとえ
心の通い合う関係をよこ糸にたとえていました。
そして、まずはしっかりとたて糸を張り
次いで、感情に彩られたよこ糸を
絡ませていくことで
安定した学級が作られていくと書かれていました。
 
確かに、見事に関係性を言い当てていると思いました。
そして、それは何も教育現場だけの話ではありません。
目的を持つ人の集まりの中では
チームであれ、組織であれ、はたまた家族であれ
当てはめることが出来るのです。
 
家族であれば、まずたて糸として
親がルールや判断基準を示します。
そして、同時に互いの気持ちを察し合い
感じ合って、許し合い
心を通わせるよこ糸を張っていくことで
安定感のある安心感に満ちた家族がつくられるのです。
 
組織も同じです。
明確に示された理念や目的があり
信念を曲げずに推進させる人がいて
その上で、ゴールに向かって一緒に頑張る
仲間たちとの支え合いやつながりが
丁寧に築かれていく。
それが実現できる組織にだけ
大きな成果をもたらすことが出来るのです。
 
たて糸とは
どこに向かおうとするのかを示す背骨であり
大事にしたい価値観や考え方です。
それは、時にとても厳しさを伴うものなので
誰もが担えるわけではありません。
強い信念を持つ
途中で投げ出さない
最後まで責任を背負う力を持つ人が
担うべきものです。
 
そして、よこ糸には
互いに手を取り合い
それぞれの持つ個性を存分に生かして
互いを認めて、許して、励ます関係で
メンバー全員が積極的に努力することが求められるのです。
 
たて糸が弱く、よこ糸だけが強固な布地は
負荷がかかると簡単に破れてしまうかもしれません。
たて糸が強過ぎて、よこ糸が弱々しい布地は
柔軟性が無く着心地が悪いかもしれません。
 
最初にしっかりとしたたて糸を張った上で
よこ糸を織り込んでいけば
上下関係を示すたて糸は外からは見えなくなり
よこ糸の織り成す鮮やかな色彩だけが浮かび上がる
素敵な布が出来上がるのです。
 
私の役割は
時にたて糸となり、進むべき方向を示し
時によこ糸となって、皆を安心に包むこと。
母の見立て通りの、着心地が良く
それでいて心躍る鮮やかな色彩を放つ布となるには
まだまだ力及ばず、頼りない糸ですが
簡単には切れないしなやかさと強さは
常に持ち続けたいと思います。